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国語の力をつける、オリジナル文章と問題

 こんな文章はふさわしくない!(例:サッカーが題材の入試問題。サッカーを知らない子には出来ない…)」

 「こんな問題は変だ!(例:結構あるんですよ。割愛しますが…。)」

と、結構不満を持っていました。

 

 ―じゃあ、自分で書いてつくれば?―

 

と、天の声!?

 

 そうか、初めから自分で書けばいいんだ!

 私、別の媒体で文章を発表しているので、全くの素人ではありません。そこで、

このコラムでも、よりよい教材をつくるために文章を作成し、発表していきます。 

 そこから、個人個人の学年や力に合わせて問題を作成し、指導の一助にしていくつもりです。そのうちの作成過程や問題の一部もこのコラムで発表していきます。

 

 まずは物語から。とりあえず『巧美』という題で。小学四年生が主人公です。

 難しい漢字や表現などは、後ほど作成時に学年に合わせて改めます。

 

 春休み。ただでさえうれしいのに、今日は花見だ。巧美はつい早起きしてしまった。台所からトン、ギッ、トン、ギッ、というぎこちない音が聞こえる。あれはお母さんがまな板で卵焼きを切りわけている音だ。お母さんは不器用だ。テレビドラマに出てくる「お母さん」のようにトン、トン、トンとか、トン、スーッ、トン、スーッとかいう軽快な音を立てて包丁を使うことができない。時々、切ったはずの卵焼きを箸で一切れつまんだはずが、まるでカルガモの引っ越しのように他の卵焼きがぞろぞろとくっついてくることがある。けれど味はいいので巧美は満足している。

 半ズボンとランニングシャツに着替え、お母さんにおはようと挨拶をして、玄関の戸をガラガラと開けて外に出る。

 巧美の家は丘を少し登ったところにある。家の前の、車がやっとすれ違えるぐらいの道を横切ると、下の方は緩い崖になっていて所々に家の屋根が見える。その向こうは広い県道になっていて、そのすぐ先を大きな川が走っている。今日はその川から一面の朝霧が立ちこめていて、川向こうが見えない。それでも巧美は息を思い切り吸いこんで、今日待ち受けているはずの楽しみの数々を、牛が反芻するように何度も想像した。大人達に見まもられ、川向こうの丘までみんなではしゃぎながら行く道中、ござやビニールシートを敷き詰めた上でみんなで食べるお弁当、普段は一緒に遊ばない女の子達とするゲーム、丘の奥に広がる広大な公園の探検。巧美達を見まもるかのように頭上に広がるピンクの桜たち。やがて、大人達は酒を飲み過ぎたのか、シートの上で後ろに伸ばした手をつっかい棒のようにして足を投げ出している。中には寝ているおじさんもいる。みんなで帰る頃には、行きは謹厳実直で子ども達に道に広がらないように注意していた大人達も、今度はふらふらと道の真ん中辺りを歩いている。そんな緩い空気も巧美は好きだ。巧美はもう一度空気を思い切り吸いこんでから家の中に戻った。

   

 広場に町内の子ども達が集まってきた。世話係の大人達もちらほら見える。巧美は洋介の姿を探した。まだ来ていない。けれどそのうち来るはずだ。洋介が遅れるはずないから。

 洋介は巧美にとってスーパースターだった。スポーツ万能で頭も良い。それに顔が「ヒーロー顔」である。眉がキリッとしていてまつげが長く目元が涼しい。いつもニコニコしている。「ヒーロー顔」という言葉はお母さんから教えてもらった。お母さんはそう言って洋介の顔を褒めながらも、ちょっと昭和だけどね、と言った。僕は「昭和」の意味がわからなかったけれど、お母さんは、みんなでテレビを見ているときにお父さんがこの娘きれいだなと言っても、でもちょっと目と目の間が広いわね、とか、背が高すぎかな、とか必ず一言付け加えるので、それと同じように何か良くない意味なのだろうと思った。でも僕はその言葉の意味はあまり気にならなかった。「ヒーロー顔」という言葉が気に入ったからだ。言われてみれば確かに洋介は僕にとってヒーローだ。

 

 体育の授業でソフトボールの試合をしたとき、僕はフォアボールを選んで一塁に立っていた。ソフトボールや野球はあまり知らないし、あんな大きな硬そうなボールを打ったこともないので、どうしようかと思って打席に立っていたら、ピッチャーが勝手にフォアボールを出してくれたんだ。

 次のバッターがピッチャーの球を打ち返したとき、僕は二塁に向かって思い切り走り始めた。それぐらいは知っている。ところが間の悪いことにボールも一直線に転がって僕と同じ二塁の方向を目指し始めたのだ。そしてその先には二塁手がグローブを手にしてボールを待ち構えていた。このままではボールを捕った二塁手にタッチされてアウトになってしまう! そう思った僕はパニックになった。そこで何をしたかというと、慌ててきびすを返し、一塁目指して逆走し始めたのだ! しかしもちろん、一塁にたどりつく寸前に僕が目にしたものは、ボールを打った後、すでに一塁まで走り着いたバッターだった。僕の帰る場所はなかった…。その時になって、やっと僕は、バッターがゴロを打ったら一塁ランナーは二塁に向かって走るしかないのだということを思い出した。(続く)

(続き)

「何してんだよ!」と里見が言った。「ゴメン。」と言ってクラスを半分に分けたチームの中に戻る。確かに僕が悪かった。あのまままっすぐ二塁に向かって滑り込んでいれば、もしかしたらセーフになったかも知れないのだ。僕は唇をかみしめながら、クラスの男子を半分に分けたチームの中に戻った。

 

 その日の昼休み、ドッジボールに入ろうとすると、里見が、

「お前、入るなよ。」と言う。

どうして? と聞くと、里見は、

「お前、鈍いんだよ。」と言い、なあ、と後ろを振り向いた。すると、里見と中のいい啓太が、そうそう、逃げてばかりだしと言ってうなずいた。他の子達は黙っている。

 確かに僕はドッジボールでも、強いボールを受ける自信がなくて、たいてい逃げ回っている。でもそれはそれなりに楽しくて、最後の数人まで逃げ残って誇らしい気持ちになることもあった。でも、里見達はそれが気に入らないんだろう。というより、今朝のソフトボールでの失敗があったから、それが僕を責めるきっかけになっているんだろう。 

 僕は助けを求めて割とよくしゃべる進の方を見た。でも、進は何となく目をそらしている気がする。他の子ども達も何も言わずに下を見ている。にやにや笑っているやつもいる。 里見達はクラスでいばっている方だから、誰も何も言えないんだろう。僕はあきらめた。けれど、そのまま教室に帰るのは負けたみたいな気がするから、しばらく立ったままみんながドッジボールをするのを眺めていた。

 始業のチャイムがなった。みんなは急いで教室に走って戻り始めた。誰も僕のことを見ようともしない。僕はのろのろと歩いて教室に戻った。

 

 その日から僕はハミゴにされた。その頃男子の間ではドッジボールがはやっていて、昼休みはもちろん、十分でも休み時間があるとすぐに隣のグラウンドに飛び出してやっていたのだが、それにはもう入れてもらえなかった。というより、僕の方から入ろうとしなかった。僕は休み時間になると教室の後ろにある学級文庫の本を席まで持ってきてぱらぱらとめくって時間を過ごした。学級文庫には先生や生徒が持ってきたいろいろな本があった。

『オズの魔法使い』、『ハリーポッターと賢者の石』、『ナナのたんぽぽカーニバル』、『いやいやえん』…。どれにもまったく興味が引かれなかったが、何もしないでいると教室にいる女子にハミゴにされていることがバレてしまうから(後から考えるとすでにバレているようだったが)、しかたなしにパラパラとめくりながら上の空で読んだ。しかし、頭の中では漠然とした寂しさで一杯だった。時には、口の両端を引っ張って「学級文庫」というと別の言葉に変わるなどと考えることもあったけれど、それを言っておもしろがる相手もいない。二、三日で二十冊ぐらいしかない学級文庫を一通り目を通してしまうと、今度はカバンの中から面白くもない教科書を取り出して眺めたりしていた。もしかしたら女子から勉強熱心とみられるかも知れないと思って心ときめかしたりする瞬間もあったが、やは心の中は無人島に取り残されたような寂しさが大半を占めた。教科書を読むのにも飽きると、かっこ悪いとは思いながらも机の上につっぷして時間を過ごした。

 今までは学校に行くのが楽しかったのに、もう、全く楽しくなくなった。けれど、お父さんやお母さんには言わなかった。告げ口するようで情けない気がしたし、そんなにたいしたことではないような気もしたから。学校は勉強しに行くところなんだから、そんなことでくよくよしていても仕方がないと思ったから。でも、僕はそれほど勉強ができたわけでもなかった。

 巧美達の小学校は集団登校をするので、朝は丘を降りたところにある公園にみんなが集まってくる。三年生の洋介と新ちゃん、巧美はいつも早めに集まって鉄棒で遊んだり、馬跳びやエスケンをしたりして集合時間ぎりぎりまで遊ぶ。ハミゴにされてからも、この時間は巧美も今までと同じように遊んだ。そもそも洋介も新ちゃんも別のクラスなので巧美がハミゴにされていることは知らない。洋介は何をやらせてもうまく、逆上がりを軽くこなしたし、馬跳びでも僕の肩の上を跳んだ。巧美達が、洋介スゲエ、と言うと、洋介はニッと笑って、

「そんなことないって、お前達もできるって。」と逆上がりや馬跳びのコツを教えてくれるのだが、新ちゃんと巧美はいつまでたってもできないのだった。けれど、そんな巧美達を洋介は決して見下したりはしなかった。登校するときも三人は一緒になって、学校に着くまでテレビアニメの話やゲームの話をし続けるのだった。

 そんな風にして一週間ぐらい立ったころだろうか、やはり昼休みに机の上に突っ伏しているところを、トントンと肩を叩かれた。見あげると洋介が立っている。

「巧美、どうしたの?」

 巧美は洋介に心配をかけたくないし、何よりもハミゴにされたことがカッコ悪くて洋介には知られたくなかったので、昨日夜更かしして眠いんだ、と答えた。洋介はふーんと言って少しけげんそうな顔をしたが、すぐに、

「あ、俺、ドッジの途中だから。今日は早く寝ろよ!」と言って教室から出て行った。(続く)